神経発達症と発達障害の違いについて【DSM-5】【ICD-10】
私は、発達障害の可能性があると思い精神科を受診し検査をしました。
結果は発達障害であると担当医の口から説明を受けました。
ところが、診断書を貰うとそこには神経発達症と診断名があります。
調べてみるも、神経発達症と発達障害の違いが分からずにいたので、理解できるまでとことんに調べたので同じように分からない人もいるかも知れないと思いまとめてみました。
結論から言うと名称の違いについては、現在日本が精神疾患を診断するにあたって診断基準にしているマニュアルが2種類あるためです。
DSM-5とICD-10と呼ばれる診断ガイドがあります。
それによって、診断名に違いが生まれています。
それらについて、まとめてみましたのでご参考ください。
はじめに
これからDSM-5による診断名とICD-10による診断名について説明をしていくのですが、DSMとICDともに『発達障害』という診断名はありません。
近しい言葉で、ICDにおける「心理的発達の障害」の項目があります。
この「心理的発達の障害」という項目から『発達障害』が生まれたと思われます。
なので、ICDにおける「心理的発達の障害」に関することは、『発達障害』の名称としてここでは使用させていただきます。
発達障害、神経発達症/神経発達障害につきましてはどれも同じような意味合いで使用されています。
それらの診断名の違いについて調べてまとめております。
しかし、個人の素人が調べたことによる間違い、知らなかった事実を知ることにより精神的負担が掛かる恐れがあります。
これからの説明を見る前に注意事項を一読してもらえると幸いです。
注意事項
「2019年9月3日執筆」並びに「オンライン(インターネット)上」にある情報のみで掲載。「2019年11月25日に編集」
それに伴い、その他サイト、文献や書籍、行政等とは記載や見解などと異なる箇所がある場合がございます。
間違いがありましたら、ご指摘してください。
また、診断名に関する事をまとめており、
診断内容や診断基準に関する事はございません。
なお、発達障害当事者、並びに親御さんには衝撃を与える可能性がございます。
ここで受けた心理的負担、精神的負担等の責任事項に関して一切の責任を負いません。
ご理解いただけた人のみ、内容をお読み下さい。
自己責任としてお願いします。
目的
発達障害関連に関して、ネット上では様々な診断名が飛び交っていて私自身が混乱をしたため、情報錯綜をなくそうと私的な目的で作成しました。
なお、私的に考察してる部分もあります。
私的の考察箇所に関してはなるべくわかりやすいようにしております。
間違い等ございましたら、ご指摘ください。
お調べして訂正したいと思いますので、
ご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします。
神経発達症と発達障害の違い
神経発達症と発達障害はそれぞれの参考にする診断ガイドにより、診断名の違いが生まれています。
神経発達症はDSM-5と呼ばれる診断ガイドを参考。
発達障害はICD-10と呼ばれる診断ガイドを参考。
それにより診断名の違いがあるのですが、神経発達症は発達障害とほぼ同じ意味合いです。
診断分類に少し違うところがありますが、神経発達症だから発達障害ではないという訳ではなく、発達障害支援法を受けれないのかという訳でもありません。
まずは、神経発達症と発達障害の概要を説明して、それぞれの違いについてを説明して行きたいと思います。
神経発達症とは(DSM-5)
精神疾患の診断基準にDSM-5と呼ばれる診断ガイドがあります。
そこで、定義されている診断名です。
神経発達症の概要
神経発達症の概要は以下の通りです。
2013年刊行のDSM-5では「神経発達障害Neurodevelopmental Disorders」というグループ名が新たに提唱されている。神経発達障害は、DSM-Ⅳの「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」から、以下の障害群が抜き出されて構成されている。
*知的障害 (知的発達障害)
*コミュニケーション障害
*自閉症スペクトラム障害Autism Spectrum Disorder(以下、ASD)
*注意欠如・多動性障害AttentionDeficit/Hyperactivity Disorder(以下、ADHD)
*特異的学習障害
*運動障害
*チック障害
*他の神経発達障害DSM-5は神経発達障害を以下のように解説している。
1.発達期に起源をもつ病態群であり、この障害は通常発達期早期(多くは就学前)に顕在化する。
2.この障害は、個人としての機能・社会的な機能・学業あるいは職業機能に障害を生じるような、発達的欠如(developmental deficits)で特徴づけられる。
引用元:発達障害とは
DSM-5から、知的障害、自閉症スペクトラム障害、ADHDなどは神経発達症の診断名の配下に構成されています。
この『神経発達症/神経発達障害』は国が定める発達障害の定義に当てはまります。
また、「ICD-10」との診断名の違いで、自閉症やアスペルガー症候群などの診断名はありません。
神経発達症の概要図
DSM-5における診断名を国が定める発達障害の定義に当てはめた場合のイメージ図。
発達障害とは(ICD-10)
精神疾患をはじめ、全ての疫病や傷害などの診断基準にICD-10と呼ばれる診断ガイドがあります。
そこで、定義されている診断名です。
発達障害の概要
発達障害の概要は以下の通りです。
ICD-10には「心理的発達の障害Disorders of psychological development」というグループ名があり、以下に示す心理的発達の障害の3つの特徴は、発達障害の定義として教科書等にしばしば引用される。
1.発症は乳幼児期あるいは小児期であること
2.中枢神経系の生物学的成熟に深く関係していること
3.精神障害の多くを特徴づけている寛解や再発がみられない、固定した経過であること
心理的発達の障害は「会話および言語の特異的発達障害」「学力の特異的発達障害」「運動機能の特異的発達障害」「混合性特異的発達障害」「広汎性発達障害」「他の心理的発達の障害」で構成されており、「精神遅滞 mental retardation」や「多動性障害」は含まれていない。
引用元:発達障害とは
後述する「発達障害の定義」では詳しい説明はするのですが、このICD-10における診断基準を参考にしています。
発達障害の概要図
ICD-10において『注意欠如多動障害』は、心理的発達の障害には含まれていないものの、国が定める発達障害の定義では含まれる。
診断名は違うが内容はほぼ同じ
本来であれば診断名に大きな違いは生まれません。
詳細は後述しますが、現在(2019年)はDSMとICDの改訂時期がズレてしまったがために診断名に大きな違いが生まれてしまっています。
日本国の公的機関はICDの診断名を使用しています。
公的機関に提出する書類にはICDによる診断名と診断コードを使用するのですが、診断をする際の参考にする診断ガイドはDSMとICDのどちらを参考にするかは決められておらず担当する先生の自由とされています。
なので、DSMによる診断名を付けられたり、ICDによる診断名を付けられたり、担当医によって違いが生まれます。
そのために、下の画像の様にICD-10に対応するDSM-5の診断名を「診断名参照表」として分かりやすく表が作られていたりします。
引用元:発達障害者支援ハンドブック2015 -東京都福祉保健局-
現在(2019年)は、ICDの方にて改訂が決まり、日本は対応に追われている状況です。
発達障害関連の診断名はICDでもDSM-5と似た診断名に変更される可能性が高く、診断名の違いによる混乱は収まると思います。
神経発達症と発達障害の診断名がある理由
上の項目でさらっと説明した通りにDSM-5とICD-10と呼ばれる診断ガイドが存在しています。
そのために、発達障害と思い受診したのに神経発達症と診断名を受けた人がいると思います。
神経発達症と診断名を受けたから発達障害とは違う、という事はありませんのでここでは、診断名の違いを生み出したDSMとICDについて説明をしたいと思います。
DSM-5とICD-10の存在
DSM-5では、発達障害の診断名は存在せず、神経発達症という診断名が存在します。
ICD-10では、神経発達症の診断名は存在せず、発達障害という診断名が存在します。
DSMとICDの2種類の診断ガイドが存在しているために、神経発達症と発達障害の診断名があります。
では、DSMとICDの違いは何なのか?
DSMとICDの違いについて説明したいと思います。
DSMとICDの違い
DSMとICDの大きな違いとしては、
- 規模の大きさ
- 扱っている疫病
この2種類が当てはまると思います。
DSMの特徴は、
- 米国精神医学会が発行
- 精神疾患のみを扱う
があります。
ICDの特徴は、
- WHO(世界保健機関)が発行
- 全ての疫病、傷害を扱う
があります。
DSMとICD、それぞれの詳細について説明をしていきます。
DSMとは
アメリカ精神医学会(APA)によって出版されている書籍です。
精神疾患に関する統計と判断基準・診断分類があり、精神疾患の専門書の様なものです。
正式名称は、
『Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders』
です。
これを略して『DSM』と呼ばれています。
日本語訳では、
『精神障害の診断と統計マニュアル』
と訳されています。
現在(2019年)は、第5版まで発行されていますので、「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」として日本では販売、使用されています。
DSM-5の初版の発行年は2013年です。
ちなみに、DSM-5以前の書籍ではDSM-ⅣやDSM-Ⅲなどローマ数字が使用されていました。
それが最新版となるDSMでは「5」の世界標準であるアラビア数字が使用されています。
DSM-5から正式にローマ数字からアラビア数字に変更されました。
理由として、「5.1」や「5.2」など小さな改訂をした際に分かりやすく対応するためにアラビア数字が採用されました。
また、DSM-5では先ほど説明をした通りに「発達障害」という診断名はなく、「神経発達症」という診断名があります。
それだけではなく、「神経発達症」「神経発達障害」や「注意欠如・多動症」「注意欠如・多動性障害」など、『症』と『障害』の二つ名が用意されています。
『症』の診断名が付いたから軽い症状。
『障害』の診断名が付いたから重い症状。
などの違いはありません。
日本語での診断名を決める際に専門学会にて色々な意見が飛び交い、どちらも使用できるようにと二つ名が用意された経緯があります。
児童青年期の疾患では,病名に障害とつくことは,児童や親に大きな衝撃をあたえるため,「障害」を「症」に変えることが提案された。不安症およびその一部の関連疾患についても概ね同じような理由から「症」と訳すことが提案された。
DSM‒5 の全病名で,「障害」を「症」に変えた方がよいとする意見も少なくなかった.その一方で,「症」とすることは過剰診断・過剰治療につながる可能性があるなどの反対の意見もあり,専門学会の要望の強かった児童青年期の疾患と不安症およびその一部の関連疾患に限り変えることにした。
ただし,「症」と変えた場合,および DSM‒IVなどから引き継がれた疾患概念で旧病名がある程度普及して用いられている場合には,新たに提案する病名の横に旧病名をスラッシュで併記することにした.前者の例が,例えば「パニック症/パニック障害」であり、後者の例が,たとえば「うつ病(DSM‒5)/大うつ病性障害」である.
ICDとは
世界保健機関(WHO)によって出版されている書籍です。
国際的な統計基準として公表している判断基準・診断分類です。
正式名称は、
『International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems』
です。
これを略して『ICD』と呼ばれています。
日本語訳では、
『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』
と訳されています。
現在(2019年)では、第10版まで発行されていますので、「疾病、傷害及び死因の統計分類提要 ICD-10」として日本では販売、使用されています。
ICD-10の初版の発行年は1990年です。
日本では、国の行政などでこのICDを使用しています。
歴史は古く1900年から導入されています。
下の画像は日本におけるICDの歴史です。
引用元:ICDのABC
ICDが日本の公的機関などで使用されているために、国に何か申請をする際は、DSMによる診断名ではなく、ICDによる診断名が必要になる場合があります。
なぜ、発達障害の診断名が有名なのか
発達障害の診断名は聞いたことあるけど、神経発達症の診断名は聞きなれない人が多いと思います。
私もその内の一人でした。
診断書を見て初めて「神経発達症」の診断名があることを知りました。
なぜ、神経発達症と発達障害があるのに、発達障害の名称が有名なのかを考察してみました。
発達障害支援法の「発達障害の定義」で有名
2005年に施行・2016年に改正された法律で『発達障害支援法』が制定されました。
そこに、「発達障害の定義」があることから、発達障害の名称が世に広まったと思われます。
発達障害者とは、発達障害(自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害など
の脳機能の障害で、通常低年齢で発現する障害)がある者であって、発達障害及び【社会的障壁により】(新)日常生活または
社会生活に制限を受けるもの引用元:発達障害者支援法の改正について
主な発達障害の定義として、下記のURLにて参考資料があります。
DSM-5は2013年発行であり、その時に「神経発達症」の名称が出来ているからというのも理由にあると思います。
DSMとICDともに発達障害という診断名はないですが、ICDには「心理的発達の障害」という項目があります。
そこから、国が発達障害という名称として定義したと思われます。
国が定める法律の「発達障害の定義」において『発達障害』の名称を国が定めたことにより、マスメディアによって拡散の基『発達障害』の名称が有名になったと思われます。
発達障害の範囲
『発達障害の範囲図』
下記URLにあるICDコードのF80-F89の『心理的発達の障害』、F90-F98の『小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害』に記載がされています。
ICD10 国際疫病分類第10版 第5章 精神及び行動の障害(F00-F99)
今後の「発達障害」の診断名に関わる話
今まで『発達障害』と『神経発達症』の診断名について説明をしてきました。
DSMとICDの参考にする診断ガイドが違うことから診断名に違いが生まれると説明をしましたが、この度ICD-10を改訂することが決まり、WHO(世界保健機構)はすでに最新版となるICD-11を公表し2019年5月に承認されています。
第72回世界保健総会 : 国際疾病分類ICD-11、患者の安全性、緊急医療システム、医療施設における水・衛生サービスに関する決議を採択
約30年ぶりにICDが改訂される
ICD-10の初版が発行されたのは1990年です。
そこからの改訂なので約30年ぶりとなります。
日本は英語記載がされているICD-11の診断名をどのような日本語訳にするかなど検討している段階です。
正式発効される予定は、2022年とされています。
現段階でICD-11の診断名の新病名案はネット上でも拝見することは可能であり、神経発達症の診断名になる可能性が高いです。
ICDにおける発達障害が神経発達症になる可能性大
下記のURLにICD-11の精神疾患に関する新病名案を見ることができます。
発達障害に関する名称を一部抜粋すると以下の診断名があります。
これらの診断名などがあります。
ICD-10にはあった、
の診断名は無くなっています。
また、別の枠組みだった『注意欠陥多動障害』は、神経発達症群の枠組みになっています。
DSMの診断名に似ている
ICD-11の新病名案を見る限り、DSM-5の診断名に似ています。
この事から、診断名は神経発達症がメインになるとは思いますが、国が定めている「発達障害の定義」における『発達障害』の名称が変更されるのかは分かりません。
もし、国が定める『発達障害』の名称に変更が加えられない限り、一般的には発達障害の名称がこのまま定着していくかもしれません。
ちなみに、ゲーム障害について
ニュースなどで、ゲーム障害という話題をお聞きした方はいると思います。
このゲーム障害は、今後に発行されるICD-11から新たに加わった精神疾患に関する診断名です。
DSM-5においてゲーム障害はなかったのかと言うと、診断名はなかったものの、今後の研究のための病態として、『インターネットゲーム障害』の記載はされていました。
なので、このゲーム障害に関してもDSMではICDに合わせて追加されると思われます。
おわりに
以上で神経発達症と発達障害の違いについて説明を終わります。
今はDSM-5とICD-10による診断名の違いから色々な発達障害に関連する名称が飛び交っています。
私自身はそれで、すごく混乱しました。
しかし、今後に診断名が統一されると思いますので混乱する人は減るとは思いますが、調べた内容をまとめて残しておきます。
これで、理解していただけると光栄なのですが、再度見直し修正を加えたりなどしてより分かりやすくなるように努めたいと思います。
参考になると幸いです。
その他発達障害関連に関する記事
参考資料
ICD10 国際疫病分類第10版 第5章 精神及び行動の障害(F00-F99)
働くことに障害のある方の就職情報サイト | LITALICO仕事ナビ
【2019年9月3日作成及び掲載】
【2019年11月25日編集】